心の鍵はここにある
「それなら、もう一層のこと、俺の彼女って公言するか? それなら嫌がらせもされないんじゃないか? もし陰で何かあったら逐一俺に報告くれれば対応する。……どうかな?」

 越智先輩の発言に、加藤先輩が反応する。

「あのね……、女子は恋愛ごとに関しては陰湿なんだよ? そんなので五十嵐さんを守れると思う? それならさ、直が五十嵐さんのことが大好きでベタ惚れで溺愛して、何かあったらタダじゃおかないってのをアピールしなきゃ守れないよ。それに、卒業するまではそれでよしとするよ。でも来年は? 今の二年、牽制しなきゃ」

 何だか話がすごいことになってきた。
 そこまでして、マネージャーを獲得しなきゃいけないの?

「……あのぉ」

 私の声に、先輩たちの視線が向けられる。
 身長差が軽く二十センチ以上あるので、正確には見下ろされている、だ。

「今の、二年の女子のマネージャーさんに、男子の方をやってもらう訳にはいかないんですか?」

 これが一番角が立たないと思うんけど、どうやら先輩方はそれでは納得しないようだ。

「今の二年のマネージャーは三人いるんだけど、これも色々あってね……。五十嵐さんがやってくれるのが一番いいの。……ダメかな?」

 彩奈先輩の困った表情が、ますます私の不安を煽る。
 その色々って言うのが、とても気になる。

「……その三人にも、俺、過去に告白されてるんだよ。もちろん断ってるけど。だから、その中からってなるとまた揉めごとになるから」

 なるほど、そういうことか。
 事情は理解できたけれど、私がマネージャーを引き受けるために大変な覚悟を決めなければならないのはなぜだろう。
 でもそこまでして、私がマネージャーをする理由はない。

「ややこしい人間関係に巻き込まれたくないので、やはり退部させていただきたいです」

 私はそう言って頭を下げると、踵を返して二人を残して自分の教室へと向かったはずが、腕を掴まれて動けなくなった。

「だれが帰っていいって言った?」

 腕を掴んでいるのは越智先輩だ。顔を見れば、どす黒い笑顔が貼りついている。

「ですから、私はそういう面倒に巻き込まれるために入部するんじゃないですから。ほかを当たって下さい」

「やだ。俺は君がいい」
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