心の鍵はここにある

「私だってそうだよ。だってさつきは私の唯一の幼馴染だもん」

 折りたたみの小さなテーブルを囲んで、私達は取り留めのない話を始めた。
 そしていよいよ本題に入る。
 私は、それまで三人だけの秘密と言われていたあの話を始めた。
 女子バレー部のマネージャーとして入部届を出したのに、彩奈先輩と直先輩の話し合いで、勝手に男子バレー部のマネージャーにされた事。
 抗議しに三年の教室に向かって行き、直先輩の偽物の彼女となり先輩達が私を守るからと言う条件でマネージャーを引き受けた事。
 その後はみんなが知るお付き合いの振りをしていた事。
 下校時の制服デートがメインで、休日一緒に出かけたりしなかった事。
 こうして話をしていると、単なる女友達の一人と言ってもおかしくない扱いだ。

「何だか、里美って都合良く振り回されてるね。こうやって話を聞くと」

 私が思っていた通りの事を口にしてくれるさつき。
 私は激しく同意して頷いた。

「だいたいさ、マネージャーだって私がしなくてもいい事じゃない?
 男子の部員からマネージャーに回れば良かっただけなのにね。
 偽物の彼女になる必要ってあったのかな」

 私はジュースを飲みながらさつきに聞いてみた。

「うーん、それを言われるとねぇ……。
 確かに直先輩目当ての女が多過ぎたから、先輩達も過剰に反応していた訳だよね?
 直先輩もバレー馬鹿だったし、彼女がいれば外野はおとなしくなるって思うのは納得いくけど……。
 でも、里美が直先輩に気に入られていたのは見ててわかる。
 じゃないと、側に特定の女の子を置いたりしないでしょ、あの人は」

 さつきはポテトチップスを頬張りながら、口の回りの脂を拭き取っている。
 確かに直先輩はバレー馬鹿で女の子に興味がない。
 彩奈先輩を除く特定の女の子が、先輩のそばにいるのを見た事がない。

「でもさ、そんな先輩が唯一側に置く女の子が里美なのに、『里美だけは無理』って、どう言うつもりなんだろうね、全く腹立つわ!」

 さつきのやけ食いモードに圧倒される。
 封を切ったスナック菓子の袋は、まあまあの量。
 しかも時間帯を考えると、そろそろ控えた方がいい。

「さつき、そろそろ歯磨きしようか?」

< 31 / 121 >

この作品をシェア

pagetop