心の鍵はここにある
それとなく食べるのを止めるように促すと、さつきも冷静になり、食べたスナック菓子の空袋を見てガックリと肩を落とした。
「……はぁ、またやってしまった。明日からダイエットする!」
「はいはい、わかったよ。一緒に洗面所行こ?」
私達が一緒に部屋から出ると、父が帰宅しており、既に部屋着に着替えて母と何やら話をしていた。
「お父さんお帰りなさい」
「おじさんお邪魔してます」
二人それぞれが声をかけた。
「ただいま、里美。さつきちゃん、いらっしゃい。今日はお泊まりだって?」
母から聞いたのだろう。
「はい、騒がしいと思いますがよろしくお願いします」
「年頃の女の子が集まるんだから騒がしいのは当たり前だよ。でも寝不足にならない時間には寝るようにね」
父はそう言って、改めて私達にこう言った。
「そうそう。さつきちゃんも知ってて欲しいから言うんだけど……。
父さんな、今日内示があって八月から徳島に異動になるんだ」
父の言葉に、私達は固まった。今日は、七月二十四日。……一週間後だ。
「里美も高校生になったし、せっかくさつきちゃんと同じ高校だから、爺さんの家に残ってもいいけど……、どうする?」
父は、私達を気遣う言葉をかける。
引っ越しばかりの私の淋しさを知っているだけに、今回は私に選択肢を与えてくれる。
私が在学中に父が転勤になるのは分かっていた事だ。その為に、この高校に進学したのだから。
でも……。
「八月一日付けの異動だから、引継ぎもあるし遅くても八月五日には向こうに着任する。
だから、引っ越しもそれまでにしなきゃいけない。
どっちにしろここは、会社の借り上げ社宅になるから引っ越す事になるんだ」
父の言葉に、頭が混乱していた。通常なら、来年の夏が異動の筈だったからだ。
せっかくさつきと同じ高校だし、出来る事ならば松山に残りたい。
でも……。
さつきもきっと混乱しているだろう。私達は、歯磨きを済ませると、部屋に戻った。
「おじさん、単身赴任とかしないのかな」
さつきがポツリと呟いた。
「お父さん、お母さんが居ないと何も出来ないからお母さんも一緒に着いて行くだろうね」
「里美、どうするの……?」
私はベッドに腰掛けた。里美も隣に座って、私の手を握る。
「……出来る事なら、松山に残りたいけど……。
『里美だけは無理』って言葉を聞いたら、流石に側にいるのは辛すぎる……」
気が付けば、涙が一筋流れていた。
「あの言葉さえ聞いてなければ、迷わず松山に残るけど……。その為に、この学校を受験したんだもん。
だけど……。まさか、無理って思われてるとは思わなかった。
そこまで無理させていたなんて……」
涙は止めどなく溢れてくる。