心の鍵はここにある
……彼女が欲しい風でもないのにそういう事してるから、過去の恋愛で何かしらあったのかと聞いたけど、当時のあいつは何も喋らなくてさ。
俺も五十嵐さんの事を聞いたのは、つい最近なんだ。ずっと忘れられない子がいるって。
五十嵐さん、君の事だよ」
藤岡主任の言葉に、私は言葉を失った。
まさか……。そんな筈はない。十二年前からずっと先輩も私の事を……?
「もしかして今日、ゆりちゃんに会った? 前に春奈から少しだけ話を聞いたけど……」
藤岡主任の言葉で我に返った。確かあの人、同級生って言ってた。
「大学の同級生で、越智先輩と同じ会社だと窺いました」
今朝の修羅場を思い出しながら言葉を発した。
「ゆりちゃん、あいつにストーカー紛いの行為をしてるんだって?
五十嵐さん巻き込まれたんだろ? ゆりちゃんに顔見られて大丈夫か?」
藤岡主任は本気で心配している。
しばらくの間、春奈ちゃんの家や先輩の部屋に泊まる事も提案されたけど、それは辞退した。
「その件は、多分解決したと思いますので大丈夫です。
越智先輩、あの方の弱味握ってるみたいで、証拠を突き付けた上で私達に危害を加えない様に釘を刺してました」
私の発言に、安堵の表情を浮かべる藤岡主任。
何だか物凄く世話焼きな人なんだな、この人は。春奈ちゃんが好きになるのが分かる。
「なら良かったけど……。ゆりちゃん、当時も結構しつこかったからなぁ。
……あれは、越智の事が好きってよりも、何か執着してる様に俺には見えたから、執着の対象が変わったらまた違うんじゃないかな。あいつも厄介な子に引っかかったよな」
藤岡主任の言葉に私も頷く。そうであって欲しい。
「で、話は越智の事に戻すけど……。
あいつ、あんなだったけど、五十嵐さんの事に関しては本当に大切に思ってるのは間違いない。
過去は変えられないから、またオンナ関係で嫌な思いをするかも知れないけど……。
あいつの、五十嵐さんに対する気持ちだけは否定しないでやってくれないか?
初恋拗らせて、十二年経ってやっと再会出来たんだからさ」
藤岡主任はそう締めくくり、先に出ると言って、手土産のドーナツを持って店を後にした。
私は、藤岡主任の言葉にまたまた混乱した。
休憩時間が終わりに近付いていたので、コーヒーを飲み干し、トレーを片付けて店を出ると、会社へ戻ったけれど……。
午後からの仕事は、当然の事ながら集中出来なかった。