心の鍵はここにある
涙の止め方
私の涙を見た先輩は、私をそっと抱き寄せた。
先輩の腕の力に任せてそのままもたれかかり、先輩の鼓動を感じた。
心拍数はかなり早い。先輩、緊張してる……?
ねぇ、先輩。信じてもいいの? 先輩のさっきの言葉、この鼓動の速さ、温もりを……。
「……私も」
「うん」
「私も、先輩が好き」
私の言葉に、先輩が反応した。
先輩の鼓動が更に大きく感じると思ったら、その広い胸の中に閉じ込められる様に抱き締められていた。
「……ホントに?」
先輩の声が耳に直接響くけれど、その声は、僅かに震えている。
私も流れ出る涙を拭う事もせず、瞼を閉じて頷いた。
「十二年前から、ずっと忘れられなかった。
……あの日、里美だけは無理って聞いて、無理なんだって思ったら、側に居るのが辛くて。
父の転勤に着いて行ったけど、やっぱり忘れられなくて……。
……見た目、こんなに地味な私ですけど、いいですか?」
涙でグチャグチャになった顔を見られるのは恥ずかしいけど、そんな事を気にする余裕なんてない。
どうしても、先輩の気持ちが欲しい。今の機会を逃したら、きっとまた後悔する。
涙で視界がボヤけている私の伊達メガネを、先輩は抱擁を解くとそっと外してくれた。
「見た目なんて関係ない。
俺は、十二年前、里美がマネージャーを断ったあの時に恋に落ちたんだ。そのままの、ありのままの里美が好きだ」
先輩の大きな手が、私の頬を優しく包み込む。
先輩の指が私の涙を拭うけれど、涙は後から後から流れ出て、拭いきれない。
涙で涙腺のダムは決壊してしまった。流れ出る涙は嗚咽に変わる。
先輩はテーブルの横に置いていた私のタオルを掴むと、右手で私の涙を拭き取りながら、左手は私の頬に触れたままだ。
元々化粧はファンデーションを塗る位だから、素顔とそんなに変わらない私の顔を、先輩は熱を帯びた眼差しで見つめている。
でも多分、今の私の顔は涙と鼻水でグチャグチャに違いない。
「……こんっ……なっ、不細工なっ……っく……、顔のっ……っ……?私でっ、いいんですかっ……」
泣きじゃくって上手く言葉にならない。
先輩の手からタオルを取り、顔を隠す様に涙を拭う私を見つめる先輩の眼差しは、とても優しく、このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ってしまう。
「言っただろ? 俺は、里美を見た目だけで好きになったんじゃない。
キチンと自分を持ってる、芯の強い、ありのままの里美が好きだ。
……でも、その顔は反則。俺の為に泣いてるなんて可愛すぎる」
そこまで言うと、先輩は私のベッドの横に置いていたボックスティッシュを掴み、何枚か引き抜くと、私に渡す。
私は、先輩から渡されたティッシュを使い、遠慮なく鼻をかんだ。
「うん、遠慮するな。スッキリするだろ? これからも、ありのままの姿を見せてくれるか?」
私は使用したティッシュをゴミ箱に入れ、先程のタオルで涙を拭い、頷いた。