心の鍵はここにある

「……先輩、っ……コンタクト、外して来ていいですか?」

 泣きすぎてレンズがずれた様だ。視界がますます怪しくなる。先輩の許可を得て、洗面所へ向かった。
 洗面所の電気を点けると、まず鏡でズレたレンズを探したけれど痛みで涙が止まらず、何処にズレたかが分からない。

「大丈夫か? レンズ、ズレたのか? 顔、こっち向けて」

 心配して着いて来たのか先輩が背後から声を掛けてきた。
 私は、先輩の言葉に甘えて顔を先輩の方に向けた。
 先輩は私の顔を上に向け、自身も少し前傾姿勢を取り、私の顔を覗き込む。
 真っ直ぐ向けられた視線な照れてしまうけれど、レンズのズレによる痛みでそれどころではない。

「……あった。左上の方にズレてる」

 先輩の声で位置が把握出来たので、後は鏡を見ながらズレを直して、レンズを外した。
 途端に視界はボヤけてしまうので、洗面所に置いている度入りのメガネをかけて視界を確保する。
 その一連の動きを、洗面所の入口で先輩が見ていた。
 意識すると恥ずかしくなり、思わず俯いてしまう私に先輩は、私の右手を取って部屋へと連れて行くと、先程座っていた所に腰を下ろして私を自分の膝の間に座らせた。
 いきなりの密着、しかも後ろから抱き締められ、固まらない方がおかしいだろう。
 ガチガチに固まった私の耳元で、先輩が囁く。

「やっと捕まえた……」

 先輩の声が、心に沁みる。
 ねぇ、先輩。やっぱり私の心にかけた鍵は、いとも簡単に開けてしまうのですね。
 恋愛から遠ざかっていた十二年の歳月なんて、ものともしない。
 先輩の方に顔を向けると、また先程の様に私のメガネをそっと外してテーブルの上に置いた。

「里美、少しだけこっちに身体を向けてくれる?」

 先輩の言葉を素直に聞いた私は、正面に向いていた身体をずらして右斜めに座り直した。
 先輩の右手が、私の頬を優しく撫でる。そして左手で、私の身体を支えると、先輩の顔が近付いて来た。
 ごく自然に瞼を閉じると、私の瞼に柔らかな感触が……。
 それが先輩の唇だと言う事はすぐに分かった。

「そのまま、目を閉じてて……」

 先輩の掠れた声が聞こえて、その柔らかな感触が、私の唇に伝う。
 初めてのキスは、とても温かく柔らかくて、そして私の涙の味がした。
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