心の鍵はここにある
 主任の言葉に春奈ちゃんは難色を示す。

「私はその人のこと、知らないよね? 里美さんが苦労しそうだからやめてほしいんだけど」

「いや、知ってる奴だよ。俺の大学時代の友達だから。ほら、前に一度映画館の前で会ったの覚えてる?」

 私を置き去りにして勝手に会話が進んでいる。
 私は、目の前に置いてある出汁巻に箸を伸ばした。

「あぁ、あの人……。でも、大丈夫かな。里美さん、今まで彼氏いなかったんなら、あの人はかなりハードル高そうじゃ……」
「案外、ああいう奴の方がいいって。俺の直感、当たるから、まあ見てなって」

 当事者の私を置き去りに、まだまだ話は続くのだろうか。
 でも、もしその人さえ了承してくれるなら、あの話、お願いするだけお願いしてみようかな。

「あの、その方は、今日私がいることを……」

 私の言葉に、主任は力強く頷いて答えた。

「ああ、紹介したいコがいるって言ってるから」

 春奈ちゃんは、ちょっとこれは強引じゃないかと隣でブツブツ言っている。
 どんな人が来るんだろう。
 どうにも不安で仕方ない。

「今日のこと、黙っててくれるってのは充分わかったけど、でもどうしても、五十嵐さんに何かしらしたくて。……勝手にこんな場を設けて悪いとは思ってる。仮にその気がないにしても、そいつ、五十嵐さんと同郷だから、話は合うと思うんだ。気が合えば付き合えばいいし、同郷の知り合いが増えると思って気楽に構えといて」

 同郷の言葉に、私は顔を上げた。
 私の出身は四国だ。藤岡主任は確か私の二つ上だったはず。
 ならば、あの人と同い年……
 まさか、ね……

「その方は、ご出身は高松、ですか?」

 現在の私の実家は香川県の高松市にある。
 父が転勤族で四国内を転々としていたけれど、祖父母の住む愛媛県松山市に一時期お世話になっていた。
 松山出身なら……

「あれ? 五十嵐さん高松だったっけ? あいつは松山出身だよ」

 松山出身との言葉に、胸が高鳴る。
 もしかしたら……
 いや、期待はしちゃいけない。
 世間は広いんだから、ここに来るのはあの人だとは限らない。
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