極上社長に初めてを奪われて、溺愛懐妊いたしました
続きの言葉を待つものの、なぜか千紘社長は口を閉じてしまった。その様子に、「社長?」と声を掛けると、彼は静かに首を横に振る。


「ごめん。何でもないんだ。呼び止めてしまってすまない。お疲れさま」

「はい、お疲れさまでした。失礼いたします」


千紘社長が何を言おうとしたのか気にはなったものの、何でもないと言われてしまえばそれ以上は問い詰められない。

私は、手をかけたままだったドアノブを回して、そっと社長室を後にした。

帰宅する前に秘書室へ寄ると、まだ仕事をしていた天野室長が私の姿を見て驚いた顔をする。


「あれ⁉ 笹崎、まだ残ってたの?」

「はい」


そう頷くと、彼は壁にかかった時計を指さす。


「時間大丈夫か? もう十九時過ぎてるけど」

「時間……あっ!」

そこでようやく気が付き、思わず大きな声が漏れてしまった。

そういえば、食事の約束をしていた。途中まではしっかりと覚えていたのに、お疲れの様子の千紘社長が心配で、仕事を手伝っていたらすっかり忘れていた。
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