ミスアンダスタンディング
その女の人は私の背後にちらりと目を遣ってから不思議そうに口を開いた。
「おねーさん、ひとりで飲みに来たんですか?」
こんな時間に女ひとりで居酒屋に立ち寄るだなんて、少しばかりは不審に思われるだろう。
「えと…あの…、」
「…?」
どうしよう。なんて言えばいいんだろう。
全く予想していなかった事態に頭がついていかない。
「朋美さーん」
しどろもどろになるばかりでそこから立ち去る事さえできなかった私の鼓膜を聞き慣れた声が揺らした。
ぴくり、と肩が跳ねる。
店員さんの肩の向こう、キッチンの暖簾をくぐって此方に向かってくる空大の姿が見えた。
「明日の仕込みなんですけど、サラダってどんくらい――…って…。…え…、」
「…、」
「…みぃ?」
中途半端なところで言葉を切った空大は、私の姿を見つけるなり驚愕したように目をまん丸にする。
「待って。え、なんでいんの?」
「え、っと…」
早足で駆け寄ってきた空大は、私と店員さんの間を割るように立つ。
私を見下ろす表情から怒りは感じなかったものの、かなり動揺しているのが見て取れた。
“なんで”って聞かれると、余計に言葉に詰まってしまう。
「っちょ、待って!もしかしてこの子、空大の彼女!?」
気まずい空気を断ち切るように大きな声を発したのは、さっき空大が“朋美さん”と呼んでいた店員さん。
「ミイナちゃんだよね!?ね!?」
空大を押しのけるようにズイっと顔を近づけてきた“朋美さん”の気迫に潰されそうになりながらも「あ、はい…」と小さく返事をした。
「萩野ちゃーん!!空大の彼女!!きてる!」
「ちょ、呼ばなくていいんで。てか朋美さん声デカすぎ」
「うっさいなぁ!いーじゃん、萩野ちゃんも見たがってたし」
面倒そうに言葉を吐き出す空大。
空大の肩をバシンッと叩く“朋美さん”。
「えっ、空大くんの彼女!?どこどこ!?」
そしてこの場に新たに加わった“萩野ちゃん”。