ミスアンダスタンディング


――そういえば、付き合う前にもこうやって映画を見に行ったっけ。


ピカピカと光るスクリーンを見ながら懐かしい記憶が引き戻される。

あの時の自分はとにかく必死で、なんらかの口実をつけては、みぃと二人で過ごす時間をどうにか確保しようとしてたな。

今も昔も変わらずにみぃのことで頭がいっぱいの自分に、呆れにも似た笑みが零れる。



あの後、すぐに身支度を整えた俺はみぃに誘われるまま駅前の映画館へと向かった。


いきなり映画を見ようだなんて言い出すから、よっぽど見たい作品でもあるのかと思ったのに「何が見たい?」と聞けば「どれでもいいよ」と言われてしまった。


俺も特に見たいものはなかったから適当に目に付いたものを選んだけど、洋画のヒューマンドラマで、なかなか面白かった。



「腹減ってる?」


上映が終わり、薄暗い空間からぞろぞろと人が出て行く。

腰を上げながらそう問いかければ、みぃは首を横に振った。



「…あんまり」

「…じゃあ、帰る?」


控えめに問いかけたそれに、みぃは数秒の間を置いて小さく頷いた。

結局この時間はなんだったんだろう。

真意は分からないけど、みぃが俺に会いに来てくれただけで素直に嬉しかった。


鬱々とした気分が少しだけ晴れやかになったのを感じながら、夕焼けに染まった道を二人で並んで歩く。


これといった会話をすることもなく、みぃが住むマンションに到着してしまった。



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