秘密事項:同僚と勢いで結婚した
「私たち心配してたのよ。峻くんと結婚するって聞いてたのに、挨拶に来たのは千智くんで。李は本当にこの人と結婚していいのかなって心配したけど、千智くん、何処までも好青年で…」
好感を持って頂けていることは素直に嬉しい。
「峻くんと6年間付き合ってて、突然別れたと思ったら原因が浮気だなんて…。私も傷付いたわ〜。そんな李を支えてくれて、結婚して……千智くん、本当に素敵な人。」
「お母さん…。ここでその話は…」
「だからお母さん、頑張ろうと思って!」
「えっ」
何を頑張るのだろう。
聞き耳を立てながら、俺は昼間着ていたTシャツを手に取った。
「頑張るって何を…?」
「李と千智くんの仲がより一層深まるように、ピンク色の入浴剤入れました!」
うん。
だから『一緒に入れ』と言うのですね。
お母さん。
天然なところが可愛らしい人だな。
張り切る方向性が間違っているところは何となく葉山と似ているかも。
着替え終え、浴衣を元の収納場所、押し入れにしまうと俺は深呼吸を一度して部屋を出た。
「っ…穂高くん…」
廊下で立ち尽くす葉山と目が合う。葉山は元の呼び方に戻るほど焦っている様子だった。
「お母さん、ありがとうございます。」
元カレに嫉妬している。
それは間違いない。
だから…。
《グイッ》
葉山の手首を掴んで引き寄せ、ギュッと腕に閉じ込めた。
「お風呂、一緒に入ってきます」
「あら〜♡」
俺と葉山は、おしどり夫婦の設定。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして口をパクパクさせている葉山のことなんて知るもんか。