秘密事項:同僚と勢いで結婚した
《スススッ》
「っ」
和室の戸がゆっくりと開く音。私は反射的に狸寝入りを決め込んだ。
「葉山、寝た?」
呼び方は戻っている。それに対して少しだけ寂しく感じる胸中に呆れながら、私は寝たフリを続けた。
「………さっきはごめん。」
ボソッと謝る穂高くんの声の後、ぴったりとくっついた隣の布団に彼が入る音が聞こえる。布が擦れるような音のあと静寂が訪れ、彼も眠りにつこうとしているとわかった途端、少し気が緩んだ。
そんな時。
突然、背中全体に自分のものとは別の温度を感じる。驚いて身体を動かしそうになるけれど、狸寝入りしていたことがバレてしまわないように何とかそれを回避した。
(……抱きしめられてる…?)
心臓がおかしくなるくらいに早鐘を打つ私の耳元で、彼は言った。
「………李の一番になりたい…。」
(……なに、言ってんの…)
もう夫なのに。夫婦なのに。
こんな時に限って下の名前で呼んで…本当にズルい。
それから彼は、耳に優しく注ぎ込むように囁く。
「………李……俺のこと好きになってよ…」