秘密事項:同僚と勢いで結婚した


思えば変な関係だ。


結婚してて、夫婦なのに。


とっくに私は『穂高 李』なのに。


私は、好きという気持ちひとつ満足に彼に伝えられない妻で…。


穂高くんのキス、そして想いも受け取るばかりで、私からは何も。


《ちゅっ…ちゅっ……》


何も…。


「……………っ…葉山…泣いてる?」

「っ……泣いて…ない…」


お酒を飲み過ぎたんだ。
だからこんなにも簡単に涙が出るんだろう。


「ごめん。……やり過ぎた…。えっと…」


穂高くんは私から離れて困った様子で顔を覗き込んできた。


「……泣かせてごめん…」


(……….だから…謝らないでよ…)


ウブなフリをしたいわけじゃない。ましてや純情でもないし、未経験というわけでもない。


《グイッ》


私は穂高くんの襟元を掴み、強引に唇を彼の唇に押し付けた。


「んっ…はや、ま……っ!?」


彼の口が開いたタイミングを逃さずに舌を入れる。それから特に何も考えず、ただただ夢中になって動かしてみた。アルコールの芳香を感じながら彼の舌を甘く吸うと、その動きに応えるように彼は絡め合わせてくる。



伝われ。







「……………好き……」







唇を離すと、どちらのものかもわからない液体が銀色の糸となって伸びた。


< 72 / 137 >

この作品をシェア

pagetop