最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
これまで自分の気持ちは封印して、彼の邪魔をせず彼のために良妻賢母でいようと努力してきた。『夫を立てて三歩後ろを歩くような〝古きよき妻〟でいなさい』と両親から口酸っぱく言われてきたから。
料理は母から問答無用で教えられて、なるべく手作りを心がけているし、掃除の知恵も叩き込まれたので、部屋は常に綺麗に保っている。
でも離婚を決意した今、もういい妻でいる必要もなくなる。だからこそできる頼みだ。
彼が離婚届に記入し終わり、なにかを考えているような面持ちで静かにペンを置いたタイミングで口を開く。
「離婚する前にひとつだけ、お願いがあります」
慧さんは私を一瞥し、「なに?」と言ってグラスに手を伸ばす。
「私を抱いてください」
意を決して告げた瞬間、慧さんが「ごふっ」とむせてグラスをドンッとテーブルに置いた。こんなに動揺する彼は初めて見るので、ちょっと面白い。
軽く咳き込んだ彼は、得体の知れないものに対するような目でこちらを見てくる。
「お前……言っていることがめちゃくちゃだぞ。俺と離れたいのかくっつきたいのか、どっちなんだ」
普段は〝君〟と呼ぶのに、口調が少々荒っぽくなっているところからしてだいぶ動揺しているらしい。
料理は母から問答無用で教えられて、なるべく手作りを心がけているし、掃除の知恵も叩き込まれたので、部屋は常に綺麗に保っている。
でも離婚を決意した今、もういい妻でいる必要もなくなる。だからこそできる頼みだ。
彼が離婚届に記入し終わり、なにかを考えているような面持ちで静かにペンを置いたタイミングで口を開く。
「離婚する前にひとつだけ、お願いがあります」
慧さんは私を一瞥し、「なに?」と言ってグラスに手を伸ばす。
「私を抱いてください」
意を決して告げた瞬間、慧さんが「ごふっ」とむせてグラスをドンッとテーブルに置いた。こんなに動揺する彼は初めて見るので、ちょっと面白い。
軽く咳き込んだ彼は、得体の知れないものに対するような目でこちらを見てくる。
「お前……言っていることがめちゃくちゃだぞ。俺と離れたいのかくっつきたいのか、どっちなんだ」
普段は〝君〟と呼ぶのに、口調が少々荒っぽくなっているところからしてだいぶ動揺しているらしい。