最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「……君にそこまでの意思があったとはね。ただ義務的に結婚しただけなんだろうと思っていた。家事は完璧にこなしても、俺と距離を縮めようとはしてこなかったから」


その言葉にピクリと反応し、私はちょっぴり頬を膨らませた。

距離を縮めたい願望はありまくりだったけれど、慧さんは会社ほどではなくとも壁を作っている感じがして踏み込めなかったんですよ。邪魔になったらと思うと怖かったし。

彼のほうも、もう少し歩み寄る姿勢を見せてくれていたら、違う今があったかもしれないのに。

この際ちょっとした不満もぶつけてしまえと、気が大きくなった自分に後押しされる。


「それを言うなら慧さんだって。完全に仕事人間で、家族サービスならぬ妻サービスとは無縁だったじゃないですか。まあ、別に期待していたわけではなかったですけど……そんなのいいんですけど、全然」
「してほしかったんだな」


慧さんは確信した様子で苦笑を漏らした。そして頬杖をつき、穏やかな瞳でこちらを見つめてくる。


「一絵って、案外中身も可愛いな」


不意打ちで思いもよらぬひとことが飛び出し、一瞬キョトンとした私は「へっ!?」と声を裏返らせた。
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