最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「そうじゃなくて、好きな男としたほうがいいってことだ。初めてならなおさら──」
「慧さんがいいんです」


〝好きな男〟に反応して、つい言葉を遮ってしまった。力強く言い切る私に目線を戻した彼は、やや面食らった表情をしている。


「部長だった頃から上司としても信頼していましたし、あなたとだからここまでなんの問題もなくやってこれたんだと思います。相手が他の誰かだったら、結婚自体していませんでした」


こんな気持ちを打ち明けるのも初めてだ。この一年間で彼と交わしたのは本当にたわいのない会話ばかりで、深い話はほとんどしてこなかったのだと思い知る。

だからこそ、今から残りの一カ月は遠慮せずに、自然体で接したい。


「せめて最後に、夫婦らしいことをしたいんです」


告白する代わりにそう伝えるも、抱かれたくて必死になっているような自分が恥ずかしくなってくる。私だけでなく、慧さんの気持ちだって考えなければいけないのに。

「すみません、自分の気持ちばかり押しつけて」と、俯き気味になって反省した。

黙って聞いていた彼は、小さく息を吐きながらテーブルに両肘をつき、どこか力が抜けたような調子で口を開く。
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