最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「そっちは、旦那は付き合ってくれないわけ?」
「なんって嫌味な! 別にそんなんじゃないし」
「強がるなって」


意地悪な笑みを浮かべるこの男にカチンときて、私はしかめっ面をした。

今日、慧さんはたまたまワークショップに出席しているからいないだけで、時間があるときは一緒に買い物もするんだから。

ふん、と子供みたいにそっぽを向いたところで、ふと気づいた。無理していないこの感じ、久しぶりだなと。

ようやく元通りになれてきたみたいだ。ぎくしゃくせず話せてホッとする。ただ、嫌味を言われるのはムッとするけどね。

口を尖らせたままでいると、高海は私を見てなにかに気づいたように目を見張る。


「……それ、もしかしてわざとか」
「なに?」


なんのことやら意味がわからず振り向いた直後、真剣な目をする彼がこちらに手を伸ばしてくる。そして耳と髪の間に手を差し込まれ、顎の下あたりで揺れる髪をふわりと持ち上げた。

肌に触れるか触れないかの微妙なところに手の熱さを感じ、驚いて肩をすくめる。瞠目しつつ彼をよく見ると、涼しげな瞳は私の首のあたりに向けられているようだ。
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