最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
彼は観察するかのごとく見つめたあと、ひとつため息を吐き出してからぶっきらぼうに呟く。


「〝俺のもの〟ってけん制されてるみたいで腹立つ」


俺のもの? けん制?

ハテナマークを脳内にばらまく私に、高海は無愛想な顔のまま、「鏡見ろ」と言って私の首をつんと突いた。

さっそく店内にある鏡に首を映してみた私は、驚いて目を見開く。


「えっ!? なにこれ!」


赤紫色の小さなアザがあるのだ。全然気づかなかったけど、これはもしや……キスマーク? 一体いつこんなものつけたのよ、慧さん!

心当たりがないし、今は隠せないしであたふたする私を尻目に、高海は幾度となくため息を吐き出す。


「社長も意外と警戒してんのかもな……。くそ、つけ入る隙がなくなってきた」


そんなひとり言をこぼすので、私はキョトンとしたあと、つい噴き出してしまった。だって、正直すぎるんだもの。

きっと高海は、自分の想いが叶う可能性は低いことを自覚しながら告白したはず。そういうまっすぐなところは、友達としてではあるけど素敵だと思う。
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