最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「カラーユニバーサルデザインか」
「ええ。エムベーシックは、すべての人に正確な情報をわかりやすく伝え、どんな人でも楽しめるコンテンツを作る会社としても一流企業であってほしいのです」


ジョインプレッションの社長になれば、すべての広告を自分の目でチェックして、色彩の微調整を行えるだろう。

それがエムベーシック全体となると、きっと容易ではない。アプリゲームでも色覚に配慮したものはまだそれほど多くないし、開発にもコストや労力がかかる。

だからこれは単なる理想論なのだが、語るのは自由だろう。

松岡社長は「なるほど」と感心したように言い、頼もしい笑みを浮かべる。


「いいじゃないか。ゆくゆくは私の跡を継いで、ぜひ実現してもらいたいね」


エムベーシックの社長の座はさすがに飛躍しすぎじゃないか、と内心茶々を入れ、俺は苦笑を漏らした。


「こんな理想を語っておいて恐縮ですが……私自身が色弱者なのです」


事実を打ち明けると、彼の表情がすっと真剣なものに変わる。


「万が一にも、重要な決断を誤ることがあってはなりません。私の目ではミスを犯す可能性は低くありませんし、こんな人間がトップに立つことを周囲が認めるとも思えません」
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