最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
ビジョンはできていても、実際に社長の役目を全うするのはそう簡単ではない。少なからず批判も出るはずだ。

この話をすれば、さすがの松岡社長も渋るだろう。そう思ったのだが……。


「なら、秘書をつけたらどうだ? 君が信頼できる人で構わない。誰かどうかいるだろう」


彼は思いのほかケロッとした様子で、秘書の提案をしてきた。

面食らって目をしばたたかせる俺に、彼は揺るぎない気持ちを表すような笑みを向ける。


「私はそのくらい、君以上に適任はいないと思っているんだよ。それに、君のような人が名誉ある地位に就いて、色覚の違いに対する姿勢を見せることは、色弱者にも勇気を与えるんじゃないだろうか」


彼の言葉は俺の引け目を払拭し、やる気を後押ししてくれるものだった。偏見もなく、そんな温かい声をかけてくれることが嬉しい。

しかし、松岡社長にとってはなんの所縁もない一社員の俺に、大事な会社を任せて本当にいいのだろうか。理想を叶えるために邁進できるのはありがたいが、なんだか申し訳なく感じてくる。
< 218 / 274 >

この作品をシェア

pagetop