最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました～トツキトオカの切愛夫婦事情～

右肩上がりの整った字が書かれていくのを眺めながら、物寂しい気持ちで結婚に至った経緯を思い返す。

マーケティング部の部長を務めていた慧さんが、三十一歳にして一気に社長の座についたのは、わが社では異例の出来事だった。

しかも、当時はやや業績が低迷していた頃。そんなときに行われた大胆な人事には、全社員が驚いた。

これを実行したのは、他ならぬ私の父である。

ジョインプレッションの前任の社長が退職することになり、父は自分の目利きで次のポストに最適な人間を探していた。そのときに目をつけたのが、以前から有能さを買っていた慧さんだ。

彼は頭が切れて、決して傲慢ではないが自分に自信を持っているのがわかる、堂々とした人。物事の判断や決断力にも優れていて、部長にしておくのはもったいないと、周りの社員もよく口にしていた。

父は何度も彼と会って経営の話をしていたらしい。『もし社長になれたら君はなにをする？』という問いをしたところ、慧さんが明確なビジョンと戦略案を返してきたので惚れ込んだのだそう。