最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
そこで父は彼に昇進の話を持ちかけると同時に、あろうことか私を嫁がせようと考えた。つまり、〝社長にしてあげるから娘と結婚してやってくれ〟と交換条件を出したわけだ。

信頼のおける慧さんに私を嫁がせて安心したかったのだろうが、どちらも父にとって好都合な条件でしかないじゃないか、と今思い出しても呆れる。要領がいいというか、悪知恵が働くというか……。

ところが、慧さんも経営のトップには興味があったそうで、意外にも父の出した条件を受け入れて今に至る。

結婚話が浮上してすぐに私たちは入籍し、慧さんも望み通りの地位についた。

彼がもともと持っていた手腕はさすがで、落ち込み気味だった業績をこの一年の間で急速に回復させつつある。

社長に就任した当初は、松岡社長の娘と結婚したおかげだと陰口を叩く社員もいたようだが、今は彼の実力を皆認めているはずだ。

私に対しても、慧さんが社長になるためのひとつの駒にされているにすぎないと思っている人は多いだろう。

実際、慧さん本人からもきっぱりと告げられている。形式的に設けられたお見合いの席で、『この結婚はビジネスだ。君を愛せる保証はないが、それでもいいのか』と。
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