最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
二歳年下の瀬在とは長い付き合いで、プライベートなことを話せる貴重な友人のひとりでもある。

物腰が柔らかくて愛想もよく、整ったルックスから、社内では陰で王子様と呼ぶ者もいるらしいが、異論はない。信頼できるし、非の打ちどころがない男だと俺も思う。

そういう奴だから、結婚生活についてもありのままを打ち明けている。これまでただ同居しているだけだった俺たちが抱き合うなんて、にわかには信じがたいだろう。

しばし呆気に取られていた瀬在は、事実だとわかると安堵したように口元を緩めた。


「なんだ、しっかり夫婦になっているじゃありませんか。よかったです」
「なにもよくない。離婚するんだから」


暗い声色で吐き捨てると、彼はまた瞠目する。


「はい?」
「離婚話がきっかけで近づけたんだ」
「ちょっとなに言ってるかわからない」


首をひねる瀬在に、一絵に離婚を切り出されたことから、自分の想いに気づいたところまでかいつまんで説明した。次第に呆れ顔になっていた彼はため息をつく。


「どうして本心を伝えないんですか」
「向こうが離婚したがってるんだぞ? 言えるわけない」
「まったく、社長は恋愛に関してはめっぽう不器用なんだから……」
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