最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
──妻を手放したくない。
まるで駄々っ子のようなわがままを秘め、本能のままに抱き合ったあとの休日は、お互いにぎくしゃくしていた。なるべく平静を努めたつもりだが、どうにも意識してしまって目を合わせることもままならなかった。
週明けも、何事もなかったように業務にあたっていたはずが、だいたい行動を共にしている秘書の瀬在は異変に気づいたらしい。
「今日はなんだか身が入らないようですね。休み中になにかありました?」
取引先から社に戻る車内で、運転手を務める瀬在が、ミラー越しに俺をちらりと見て問いかけてきた。
俺はタブレットから窓の向こうへと視線を移し、ぼんやりと横浜港を眺めてボソッと答える。
「妻を抱いた」
「はー、それはそれはお熱いことで……え?」
呆れたように渇いた笑いを漏らした彼だが、数秒固まったのち再び勢いよくミラーを見上げた。信じられない、とでも言いたげな顔でぽかんとしている。
「抱いた、って……夢で?」
「なんでだよ。現実だ」
思わずツッコんだが、彼が疑うのも無理はない。