釘とパズル
レイナを抱いて屋上に登ると太陽が迎えてくれた。
眩しくて目が慣れるまで身動きがとれなかった。

思い出すのはいつも昔の事ばかりだった。
家族と一緒に海のが見えるホテルに宿泊した時、お腹一杯に大きなカニを食べたな。
誕生日に苺がのっているケーキを食べた時、ロウソクを吹き消した後のケーキがやけに淋しかったのを覚えている。
夏休みに海水浴をした事、海の水がしょっぱくて不思議に思った。
他にもいろんな事をいっぱい思い出す。
バレンタインデイにチョコをあげたけど、恥ずかしがって受け取ってくれなかったな。
すごく楽しくてこのまま時間が止まればといつも思っていた。
楽しいかった後の夜は、よく落ち込んでいた。
テンションが上がって眠れずにいるとテンションが下がり暗闇が怖くなった。
眠れない夜は色々な事を考えていた。
私は、どうして生きているのかとか、どんな死に方をするのだろうとか。
誰と結婚するとか、世界が平和になるにはどうしたらいいのかとか。
考えてもなにもわからないのに考えていた。
そして全ての答えがわかったから、もう悔いはない。
「もう戻れないんだよね?」
レイナは淋しそうに言った。
「うん、今までありがとう。私もすぐにいくから」
私はレイナに火をつける。黒い煙と炎を上げてレイナは溶けていった。
茶色に変色した釘が残してレイナは死んだ。
「次は私の番だね。3.14159265368978323846」
円周率を数えながら屋上の端に足を進める。
私が死んでも円周率は変わらない。


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