独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 ただならぬ旭の勢いに負け、私はデスクの上のメモ帳に電話番号を書いてちぎり、彼に渡す。受け取った旭は目をキラキラさせて「愛花さんの番号……」と感激していた。

 ……ちょっと、気色悪いよあんた。心の中だけで、そう突っ込む。

「じゃ、また連絡します。お疲れさまでした!」
「うん。お疲れ……」

 医局を後にする旭の姿をなんとなく見送っていると、彼はドアのところで「あっ、お疲れさまです!」と誰かに頭を下げた。直後、その人物が、旭と入れ替わりで医局に入ってくる。

 ブルーのスクラブに白衣。手にはお弁当屋さんの袋。プラス、明らかに不機嫌な顔をした、小田切先生だった。

 やばい……。もしかして、旭とのやり取りを見ていて、怒ってる?

 びくびくしながら小田切先生の出方を窺っていると、彼はお弁当屋さんの袋をドサッと自分のデスクに置き、勢いよく自分の椅子に腰掛ける。

「あの……」

 白衣を着ているはずなのに、黒いオーラを纏っているように見える広い背中に、恐る恐る声を掛けた、その時。

「どうしてちゃんと断らなかったの?」

 こちらを向かないままの彼が、抑揚のない声で尋ねてきた。

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