独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 こうして、両家の親への挨拶というミッションは、とりあえずクリアとなった。

 あとは籍を入れ、一緒に暮らすだけ。

 相変わらず軽い気持ちでいる私は、仕事のタスクを一つひとつ片づけるような感覚で、頭の中の【結婚までにやることリスト】のうちのひとつ、【両家の親への挨拶】の横に、チェックマークを入れるのだった。


 翌日の昼。私は自らが執刀医となったひとつのオペを無事に終え、珍しく食堂に出向いて昼食を取っていた。

 とはいえ、頭の中はすでに午後の仕事のことでいっぱいで、ゆっくり食事を味わうほどの心のゆとりはない。

 このあとは、小田切先生が執刀する、顔面けいれんのオペの助手に入ることになっている。微小血管減圧術という、耳の後ろに小さな穴をあけて顕微鏡を覗きながら行う、高度な技術と熟練を必要とするオペだ。

 しっかり食べて、万全の状態で臨もう……。定食の白米を口に運び、口をもぐもぐさせながら、集中力を高めていたその時だ。

「えっ!? 小田切先生が結婚!?」
「嘘でしょ? オペひと筋で、女性の影なんて全然なかったのに!」

 すぐそばのテーブルからそんな会話が聞こえ、私は声の主たちを見た。

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