背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
仕事の打ち合わせなど何度か入った事はあるが、プライベートで来るのは初めての高級ホテル。 ここが見合いの場所らしい…… 

ホテルのロビーに入った途端、ママが立ち止まった。


「いいわね、美月。パパの大事な取引先の方なのよ。くれぐれも、粗相のないようにしてちょうだいね。分かっているとは思うけど、お酒は飲んじゃだめよ。笑顔を忘れないで」


「はいはい」

 私は、適当に返事をした。

 面倒臭いな……



「まあまあ、ママ大丈夫だよ。これだけ美人な娘だ。それに、相手もかなりのイケメンらしいぞ」

 パパは、意味ありげに私にウィンクした。

 イケメンとかそんな事はどうでもいい。
 とにかく早く終わらせたいだけだ。


 パパに連れられ、ホテルの和食処の中へと入る。案内されたのは、個室の入り口の前。
 やっぱり、帰りたいよー。

「失礼します。お連れ様がお見えです」

 中居さんに案内され、パパに続いて個室へと入った。

 
 「湯之原さん、ご無沙汰しておりまして……」

 部屋の中から張りのある男の人の声が聞こえてきた。


「こちらこそ、お忙しいところをありがとうございます」


父親同士の、ごく一般的な挨拶が始まった。



「まあまあ、堅苦しい挨拶は抜きにしまして、お座り下さい」

 などと言われ、ゆっくりと顔を上げた。


 そうは言ってもどんな相手かくらいは気になる。


 ダンディーで品の良さそうな男性が父親だろう、そして、ママに負けないくらいに、派手なスーツのおばさんが、母親らしい。

 その間に、すーっと立っているのが、見合いの相手と思われる。

 ゆっくりと、その人の顔へ向かって視線を上げた。


 その顔が、小さく笑顔を作った。

 うわっ。

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