背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
カチャッ

「ただいま……」

リビングのドアが開いた。


「あっ、お帰りパパ……」


 私は、ソファーに寝ころび、二本目の缶ビールに手を伸ばした。
 テーブルの上には袋から飛び出た裂きイカが散らばっている。テレビのバラエティー番組に、腹を抱えて笑いながら、裂きイカにお手製のマヨネーズを付けると口にくわえた。

 旨い!と、心の中で絶賛する。


 仕事が終わり、家に帰れば、スーツを脱ぎすて、すぐにお風呂だ。

 メイクを落とし、着慣れた部屋着になれば、冷えた缶ビールを喉に流す瞬間が最高! 
 勿論こんな姿、職場の誰も知らない……
 

 パパはいつものように、カバンをソファーの上に置くと、バスルームへと向かって行った。

 パパの会社はおじい様が築いた建設会社で、今はおじい様も引退し、パパが社長を引き次いでいる。年齢よりは若く見え、やり手の社長と言われているらしいが……

 バスルームから戻ったパパは、Tシャツにステテコ。ただのおやじだ。

 ダイニングテーブルにつくと、ママが用意した手料理を美味しそうに食べる。パパと向かい合って座るママは、他愛もない話をしながら、遅く帰るパパの食事に付き合う。
 いつもの事だ。


 ママは美容師で、三店舗の店を構える美人店長だ。
 世間じゃ、ちょっとお洒落な一家くらいには思われているかもしれない。


 そして、食事の後は二人してビール片手に、ソファーに寝ころびTVを見る…… 
 はずなのだが……



 食事を終えたパパは、私の寝ころぶソファーの向かいに、背筋を伸ばして座った……

 その横にママも背筋を伸ばして座った……
< 3 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop