背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「はあ……」

思わずため息が漏れてしまった。


「もしかして、箕輪商事さんですか?」

「ええ、ちょっと席外すから、常務のお客様をお願いね」

「はい」



 最悪の場合を考えておいた方がいい。
 営業部の山根課長へ内線をした。この時間に社内に居た事にほっとする。


「湯之原です。いま、箕輪商事の方が受け付けに見えておりまして、常務は、来客中でその後も時間とれない予定です。先日の打ち合わせの件だと思うのですが、場合によっては、課長の方で対応して頂く事は可能でしょうか?」


 電話口の向こうで、小さなため息が漏れた。
 そりゃそうだ、先日の打ち合わせで、常務を怒らせた相手だ。


「仕方ないな…… だが、常務が結果を出している案件だ。俺に何が出来るかは分からんが、困ったら言ってくれ」


「申し訳ありません。お願いします」


 私は電話を切ると、急いでロビーへと向かった。



 アポなしの来客などよくある事ではあるのだが、トラブルのあった取引先は面倒だ。しかも、常務は、箕輪商事に会うつもりはない。どうしてもとなれば、段階を踏んでもらうしかない。



 ロビーには、スーツを着た二人組の男が立っていた。間違いなく一人は先日来社した箕輪商事の社員だ。


 私は、二人の前に立ち頭を下げる。


「常務秘書の湯之原です」


「ああ、良かった。悪いが、常務との時間を取ってもらえないか?」


 少し人を見下したような視線で、先日来所していは方の男性が言った。


「大変申し訳ありませんが、本日、常務は予定が詰まっておりまして、お時間を取る事が出来ません」


「じゃあ、いつならいい?」


「申し上げにくいのですが、常務はお会いにはならないと思います」


「先日の事は、我々も反省している。改めて書類も作りかえた。話くらい聞いてくれてもいいんじゃないか?」

 とても反省しているという態度には思えない。私は、ムッとなる腹の奥をぐっと抑えた。



「お言葉ですが、常務は大変忙しく動いております。先日の打ち合わせも、忙しい合間を縫って作った時間です。もし、どうしてもとおっしゃるのでしたら、まず、課長とお話をしてからにされてはいかがでしょうか?」


「はあ? 秘書のあんたに何が分かる?」


 苛立った表情を私に向けた。
 上司から言われて焦っているのだろう? 
 あんたの失態なのだから。
< 95 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop