背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
なんとかフロワーの受付に戻り、大きなため息を吐いた。


「どうしたんですか? さっきから様子が変ですよ。具合でも悪いんじゃ……」


 河合さんが心配そうに私を見ていた。
 河合さんは、私の三つ下の後輩で、品の良さと丁寧な仕事に評価が高い。


「ううん。大丈夫よ」


 私は、背筋を伸ばし笑顔を作った。 
 彼は、常務室を出れば、帰っていくだけのはずだ。
 基本、来客中は常務にいつ呼ばれてもいいように待機しておくのだが、出来る事ならこの場 を離れたいと、秘書らしきからぬ事を考えてしまった。



「さっきの、常務のお客様、凄く素敵な方でしたよね? どちらの方なんですか?」


 河合さんは、多分ただ思った事を言っただけで、それほど仕事に支障のある発言ではなかったと思うのだが、私の胸はなんだかモヤモヤする。


「そうかしら? 大事なお客様よ。くれぐれも失礼のない対応でお願いしますね」


 確かに、来客に対し下心丸出しの対応をする女子社員は少なくない。だが、秘書の対応としては厳禁だ。キツク指導を行っている。
 河合さんは、そんな事をするような秘書ではない事ぐらい充分に分かっているのに、ついそんな言葉が出てしまった。

 そんな、自分にも腹が立つ。


「申し訳ございません。湯之原さんの様子がおかしかったもので、気になってしまって、すみません……」

 うん?
 彼のせいで、私が変だったと思っているのか?


「ありがとう、急に胃が痛くなっただけ。ごめんなさいね」


「やっぱり、具合が悪いんじゃないですか? 無理しないで下さい」


 純粋に、具合が悪いと信じている河合さんに、申し訳なくなり胸が痛む。

 もう、何やってんだろ。

 身を引き締めなければ。
 小さく息を吐き椅子に座ったと同時に、内線が鳴った。



「はい。湯之原です」


「受付ですが、常務にお会いしたいと、箕輪商事さんがお見えでして……」

 受付の女性が、何か歯切れの悪い言い方をしてくる。


「本日、常務との約束はないはずですが?」


「それが……」


 きっと、無理にでも時間を作って欲しいと言ってきているのだろう。


「分かりました。そちらに向かうので、待っていてもらってください」


「はい、すみません」

 謝ってはいるが、明らかに受付の女性の声が明るくなった。
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