約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 SUI-LENが取り扱っている商品は、主に洗濯用や食器用などの洗剤類だ。自然由来のオーガニック成分を積極的に取り入れ、人にも環境にも優しい製品作りを目指している。近年は日本古来の植物の香りをブレンドしたアロマ商品を次々に発売しており、この『日本古来』を強調した新商品を海外に向けて売り出すのが、新プロジェクトという訳だ。

 そしてその商品に関わる資料を他国語に翻訳するのも雪哉の仕事の1つ。雪哉が商品を開発した人間だったら資料がなくても書き出せると思うが、流石に社外の人間は細かい内容まで知り得ない。翻訳のためには、どうしても商品仕様書が必要になる。

「うーん。あるにはあるんだけど、資料室だね」

 小さく唸り声を洩らす横顔に魅入っていると、愛梨が困ったように首を傾げた。そのうなじを見つめていると、愛梨が『あ』と何かに気付いたような声を上げる。

「えと、資料室は19時にセキュリティロックがかかっちゃうの。今日はもう閉まってるから、取りに行けないんだ」
「そう。じゃあ、今日は諦めようか」
「うう…ごめんね」
「愛梨が謝ることないよ。俺がもっと早く来ればよかったんだ」

 申し訳なさそうに目を閉じて唸った愛梨に、ひらひらと手を振る。仕方がないので明日また改めて出直そうと思っていると、愛梨は渡したメモをクリップで留めて、ディスプレイの横に貼り付け出した。

「明日、朝一で届けるよ。通訳室に持って行けばいい?」
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