約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

(ユキだって、昔は優しい子だったのに。あんな……強引に……)

 また激しいキスを思い出しそうになる。幼い頃一緒に田舎道を駆け回っていた雪哉が、逃げないように身体を抑え付けた上で、無理矢理に唇を奪うような乱暴な人だとは思ってもいなかった。

 けれどそれ以上に。愛梨自身が、大好きな恋人の腕の中で、別の男の人とのキスを思い出すような人だとは思っていなかった。

(言えない。弘翔に、嫌われたくない)

 まんまと雪哉の術中にはまっている。

 雪哉は愛梨が秘密を共有することで自分に意識を向ける事を望んでいるらしいが、その狡猾なやり口は十分な効果を発揮している。知られてしまったら全てが崩れ去る気がして、秘密の話は弘翔にはとても言えない。

 そして今更ながらに、今日弘翔との行為が『未遂』でよかったと思い至る。危うく大事な恋人を、汚い感情を上書きするための材料にしようとした。こんな中途半端な状態で、弘翔を利用して雪哉とのキスを消そうとしているなんて、卑怯にも程がある。

 だからやっぱり、今日このタイミングで生理になったのは不運ではなくむしろ幸運だったのだと思う。このまま弘翔を利用したら、愛梨は今度こそ自分で自分が許せなかったかもしれないから。

(なんで、弘翔といるのに……ユキの事ばっかり考えるんだろう)

 優しくて愛しい恋人と過ごす夜なのに、目を閉じるとまた雪哉の顔が脳裏に浮かんでは消える。中々寝付けない時間はただただ長く、愛梨は自然に眠りに落ちるまでひたすら雪哉の事ばかりを考え続けた。
< 126 / 222 >

この作品をシェア

pagetop