約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 観察してみても、考えてみてもわからない。雪哉が見せる表情が、愛梨と他とで違うことは想像できる。とはいえ、仕事中は他人が見てあからさまに違いが判るほどの変化を醸し出している訳ではないと思う。

 逆に愛梨の表情は、雪哉と他の人での差異など一切ないと思う。弘翔と他の人に見せる表情が異なるならば、ともかく。

 考え事をしながらもう1度雪哉の顔を見ると、にこりと微笑まれてしまった。

「……。」

 表情はともかく、性格は変わったと思う。
 雪哉いわく、口にしていなかっただけで昔から考え方は変わっていないらしいが、そんなことはない。昔の雪哉はもっと物静かで、愛梨の悪戯に簡単に引っかかってくれるほど純朴で健気だった。愛梨を困らせるような言葉をさらっと言うような大人になるとは思えない程、見た目も仕草も可愛いらしい子猫そのものだったのに……

「!?」

 そんな事を考えていると、誰からも見えない位置なのを良い事に突然雪哉に手を握られた。指の間にするりと指が入り込み、まるで恋人同士のように指を絡めて繋がれて、思わず手を引っ込めてしまう。

 一瞬かつ突然の触れ合いに驚いて顔を上げると、目が合った雪哉が再び笑顔を作る。そうやってまた、愛梨を恋の罠にかけようとする。

 『愛梨』と名前を呼びながら並んで歩いて、川辺や公園で一緒に遊んでいたときの雪哉とは全然違う。友理香が言っていた『表情が違う雪哉』に気付いてしまい、誤魔化すように口を開く。

「ユキ、私がこの前言ったこと、全然わかってないよね?」

 友理香が愛梨を困らせる事件が発生してしまったせいで忘れていたが、愛梨は先日、冷たい言葉で雪哉を突き放した。『もう連絡しないで』『弘翔に不快な思いをさせる』と酷い言葉をかけた。それに『約束を無効にしたらどうか』と一方的な提案までした。
< 163 / 222 >

この作品をシェア

pagetop