約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
そう答えると、突然弘翔に腕を掴まれて、その顔が近付いてきた。いつも優しい弘翔に焦ったように腕を押さえつけられて思わず身体が強張る。緊張感からきゅ、と目を閉じて首を竦めると、吐息がかかるほどまで顔を近付けた弘翔が、ぴたりと動きを止めた事がわかった。
宣言していたにも関わらず、口付けられなかったことに違和感を覚えてそっと目を開けると、至近距離で弘翔と目が合う。
「ほら」
「ちが…、そうじゃなくて…!」
弘翔に言われ、思わず大きな声が出る。乱暴に愛梨の腕を掴んでいた手が離れ、近付いていたはずの距離が開くと確かに身体からは力が抜けていった。
けれど違う。本当に、嫌だった訳じゃない。いつも優しい弘翔が、少し強めに腕を掴んだから驚いただけ。決して嫌だった訳ではないのに、遠ざかった温もりを永遠に失った心地がして急激に不安感を覚える。
「…ふ、っ……うぅ…」
弘翔に嫌われてしまった気がすると、不安と悲しみからぽろぽろと涙が零れてきた。止めようと思って拭っても、次から次へと涙が溢れてくる。
弘翔に嫌われたくない。ずっとそう思っていたのに、その気持ちを否定されたように感じて、つい感情的に溢れる涙を止められなくなってしまう。
「ごめんごめん、泣かなくていいよ。別に責めた訳じゃないんだ」
弘翔はいつもと同じ優しい声音で、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。溢れる涙を止めることが出来ないまま顔を上げると、骨張った指先がそっと涙を拭い取ってくれる。愛梨の好きな、優しくて男らしい手が。
「俺だって、愛梨を幸せにできるならそうしたい」
弘翔が少し困ったように笑う。だったら傍にいさせて欲しいという願いは、先に話し始めた言葉に遮られて音にはならなかった。
「けどこの前、ラウンジで話してるのを見た時に気付いたんだ。愛梨が俺に見せる表情と、河上さんに向ける表情が全然違ったから」
また、表情。
みんな同じ言葉を口にする。
まるで愛梨と雪哉がお互いに想い合っていて、周りはそれを知っているような言い方をされてしまう。そんなことは無いのに。愛梨自身はそんな事、思っていないのに。