約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「友理香ちゃんにも言われた…」
「ゆり…? ……ああ、細木さんか」

 愛梨や玲子はプロジェクトメンバーではない割に友理香と仲が良いが、なじみのない弘翔には少し不思議な顔をされてしまう。弘翔の言葉に顎を引くと『そうなんだ』と微笑んでくれた。


「最初に卑怯な事をしたのは、俺の方なんだ」

 ふと弘翔の唇からそんな台詞が零れた。言葉の意味が分からずに首を傾けると、弘翔が困ったように苦笑いする。

「本当は愛梨の心が河上さん(あの人)のものだって、最初からわかってた。でも愛梨に俺の事を見て欲しくて、振り向いて欲しくて、愛梨が寂しがってる所に付け込んだんだ」

 新卒で同じ部署に配属された当時、弘翔はボーイッシュな外見の愛梨の事を、異性としては一切意識していなかった。

 けれどお酒の席で『12年片思い中なんだ』と微笑んだ愛梨を見て、弘翔は会った事もない雪哉を心底羨んだ。男の子のような外見からは想像出来ないほど可愛らしい笑顔で『ずっと恋してるの』と呟いた愛梨を見て、自分もこんな風に誰かに一途に想われたいと思った。それがいつしか、愛梨から想われたいと願うようになった。

 他に好きな人がいる子を好きになってどうするんだ、と何度も自問自答した。けれど愛梨の想い人は愛梨の傍にいない。何処にいるかもわからない。それなら自分にもチャンスはあるはずだと思った。玲子の花嫁姿を見て羨ましそうな顔をした愛梨を見て、今なら愛梨が手に入ると思った。

 長い片思いをしている人を横から攫うなんて、卑怯だとわかっていた。幼くて拙いとは言え、愛梨とその想い人は結婚の約束までしていた。だから最初から入り込む隙なんてある筈もなかったのに、寂しそうな愛梨を見ていると、自分ならそんな思いなんてさせないのに、と思ってしまった。好きだと言わずにはいられなかった。

 そう語った弘翔の顔に、じっと魅入る。
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