約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

襲来


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 自分のデスクでメールチェックをしながら昨日の雪哉とのキスをぼんやり思い出して、1人で恥ずかしくなっているときだった。

「おはよう、上田さん?」

 傍にやってきた2人の女性社員に、背後から話しかけられた。SUI-LENはどの部署にも制服がないので、一見しただけでは女性たちの名前も所属部署も思い出せず、何事かと瞬きしてしまう。

 困惑していると、女性のうちの1人が身体を揺らしながらにこりと妖艶な笑顔を作った。

「上田さんって、情報管理課の泉さんと付き合ってるんだよねー?」
「ふぇっ……?」

 突然弘翔との関係性を訊ねられ、変な声が出た。

 弘翔は昨日飲み会だったらしいので、お酒の席で何かを言ったか、何かがあったのかもしれないと思い浮かぶ。横目で隣のシマを確認するが、あいにく弘翔はまだ出社してきていないようだ。

「でも昨日、通訳の河上さんと一緒にいるとこ見たんだよね~」
「ね、それってどういう事ぉ?」

 あ、そっちか。弘翔じゃなかった。

 弘翔が誰かに何か言ったり迷惑をかけた訳ではないと知ると、ほっと安心した息を吐きそうになった。が、目の前の女性たちが本当に聞きたい意図を察すると、今度は呼吸が止まった上に全身から汗が噴き出て来た。

 見られていた。
 雪哉と一緒に帰ったところ。

「え、えーっと…?」

 誤魔化そうと曖昧な笑顔を浮かべながら首を傾げてみる。だが女性たちの眼光に、小さな怒りが込められていることには嫌でも気が付いてしまう。ついでにその怒りの理由にも。

 彼女たちはきっと、雪哉の存在が気になっている。あるいは雪哉に好意を寄せている。

 眉目秀麗で博学多才の雪哉が、独身の女性社員たちに並々ならぬ興味と関心を向けられていることは想像するに容易い。社内では愛想よく猫を被っていて、腹黒い一面があることは知られていないのだから、尚更。

 あっという間に注目の的になってしまった雪哉が、弘翔と付き合っていると思われている愛梨と一緒にいたら。その様子を目撃してしまったら。朝から他部署までやってきて問い質したくなるのが、乙女心と言うやつなのかもしれない。
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