約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

幼馴染みの甘い執愛


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 もうユキの事なんか知らない!とふてくされながら午後の仕事を終え、今日は定時で帰宅した。雪哉の所為でランチが喉を通らず、お腹はずっと空いていたのに、胸はずっといっぱいだった。

 早めの夕食と入浴を終えて髪を乾かしていたところに、雪哉から電話がかかってきた。スマートフォンの画面に表示された『河上雪哉』の文字に怒りと呆れを覚えながら、すぐに電話に出る。

「ちょっと、ユキ…!」
『愛梨。今どこ? 家?』

 文句の1つでも言ってやろうと口を開いた瞬間、雪哉に言葉を遮られた。一瞬たじろいだものの、彼が強引な性格なのはここ最近で十分理解していたので、愛梨も負けじと応戦する。

「家だけど! っていうか、お昼の話なんだけど…!」
『うん、後で聞く。今そっちに行くから』
「!?」

 雪哉には今までの好き勝手な態度も含めて言いたいことがたくさんあったので、少し強めに抗議しようと考えていた。だがさらりと来訪の予告を突き付けられ、思わず怒りが引っ込む。

「ちょ、ちょっと待って! 何で!? 来るの?」
『そう。愛梨に大事な話があるから』
「えっ…? な、何かあったの?」
『うん、ちょっと仕事のことで』

 深刻そうな声色に気付いて問いかけると、雪哉は愛梨の疑問をあっさりと肯定してきた。仕事で何か…って何だろう。何か重大なミスをしてしまったのか、と一気に不安になる。

「いや、待って!?」

 だからと言って、家まで来られても困る。2日前、傘のない愛梨を家まで送ってくれた雪哉は、半ば無理矢理玄関まで押し入って、愛梨が困惑するほどの情熱的なキスをしてきた。その感覚は、唇だけではなく全身が覚えている。思い出すだけで身体から力が抜けそうになるほどの恥ずかしいキスを、簡単に忘れる事は出来ない。

 身体の芯から麻痺しそうになる力を振り絞って、拒否の台詞を紡ぐ。一昨日の出来事を覚えていれば尚更、雪哉を家に入れる訳にはいかない。愛梨は雪哉への想いをようやく自覚したところで、あまり急に距離を詰められても対処が出来ないから。

「ダメだよ! 私もうお風呂入っちゃったし、話すことあるなら電話で……」

 ピンポーン

 急いでまくし立てていると、部屋の中にチャイム音が響いた。スマートフォンを手にしたまま、言葉を失い玄関の扉を見つめる。
 ……早すぎない?

 それでもまだ拒否の余地はある。そのまま話を続けようとスマートフォンの画面を見て、絶句する。
 ……通話、切れている。
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