約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 肩を竦めた玲子の様子に、思わず抗議の声を上げてしまう。

 中小企業である株式会社SUI-LENで同じマーケティング部に配属になった愛梨と玲子と弘翔は、同期の中でもとりわけ仲が良い。故に3人が3人共お互いに対して遠慮がないが、そうだとしても酷い言い様だ。一応、愛梨の恋人でもあるのに。

「へえ、なんで? 弘翔の方がいいの?」

 玲子がニコニコと笑っている。
『あ、きっとこれ揶揄われれてるんだろうな』とすぐに気付いたが、否定する事ではないので素直に顎を引く。

「それにユキ…河上さんとの約束は、すごく昔の話だもん。そんなの子供同士の通過儀礼だよねって、前に話したじゃない」
「でも私、ちゃんと哲治と結婚したわよ」
「それはそうだけど…」

 以前、同期飲み会の席で恋愛話になった時の事を思い出す。その時も、そこにいたメンバー達と今と同じ会話になった。

 長い間、片思いを継続中だった愛梨は同期たちに物珍しい視線を向けられたが、玲子だけは愛梨の片思いを『全然アリだよ』と肯定してくれた。今にして思えば、その頃の玲子は自分の幼馴染みである哲治と付き合い始めた時期だったからだろう。

 その飲み会で、雪哉の名前を出さなくて本当に良かったと今更ながらに気付く。どうせ誰も知らない人だし、言ったところで興味がある人などいないと思って名前までは出さなかったが、まさか数年後に通訳として自社にやってくるとは想像できる筈がない。
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