約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 もしあの時名前を出してしまっていて、しかも同期の誰かがその話を覚えていたら、雪哉が知らないところで『上田の初恋の人』のレッテルが貼られるところだった。考えると冷や汗が滝のように出てくる。

 仮にそうなったとして、それを知った雪哉はどう反応するのだろうか。迷惑そうな顔をされたら愛梨もへこんでしまう気がしたが、その可能性が最も高いような気がする。

「私の事は覚えてたかもしれないけど、あんな約束、多分覚えてないと思うの」

 そう。あれはきっと何かの夢で、愛梨の妄想で、雪哉の戯言だった。

 そんな戯言など、雪哉は覚えていないと思う。覚えていても今の雪哉の立場を考えたら、知らないフリをされる気がする。

「そもそも河上さんの事をどう思ってるのか、自分でもよくわからないんだよね」

 雪哉に再会したことで、確かに驚きはした。一瞬戸惑って困惑はしたが、今は何よりも弘翔を傷付けたくないと思っている。

 弘翔と付き合う前までは、確かに雪哉の事が好きだったと思う。けれど今となっては、思い出に浸っていただけなのかもしれないとも思える。
 雪哉に対する今の感情は、自分自身もよくわからない。

「河上さんと話したら、自分の気持ちが理解るかもよ?」
「そんな機会なんてないよ」

 玲子の言葉に、苦笑する。平社員の愛梨が、会社の特命でやってきた雪哉に接する機会などない。それに。

「弘翔にも会わないでって言われたし」
「へぇ? 愛梨はそれでいいの? 長年の片思いにケリもつけずに?」
「え…、…うん…」
< 31 / 222 >

この作品をシェア

pagetop