約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 何か聞いてはいけないことを聞いてしまった気分になったが、10秒前に戻っても雪哉はきっと同じ質問をしたと思う。大事な事だから、聞かないままではいられない。

「……うん」

 目線を合わせないまま愛梨が頷くので、覚悟はしていたが相当の衝撃を受ける。以前目にした様子からおおよそ予想してわかっていた筈なのに、本人に認められるとショックは大きい。

 この1週間、愛梨を見つけられた事が嬉しかったのは確かだが、それよりも恋人がいるかもしれないという可能性がひたすらに怖かった。愛梨が誰かと特別な関係になっているかもしれないと信じたくなかった。だが雪哉の予想は、やはり現実らしい。

「愛梨。中学の時の俺との約束、覚えてる?」

 冷静に――言えていたのかどうかは、自分でもわからない。ギリと奥歯を噛み潰す音は聞こえていない筈だが、愛梨は少し怯えたように俯いたまま顔を上げてくれない。

 雪哉の問いかけに返事はなく、下を向いた愛梨の肩は少し震えていた。緊張しているのか怯えているのかはわからない。けれどリラックスした状態ではないことは窺える。

「1度ゆっくり話がしたい」

 少し、冷静になった方がいい気がした。
 お互いに。いや、雪哉の方が。

 自分でも困惑している。日本に戻って5年間、探しても探しても見つからなかった愛梨が目の前にいる事が嬉しくて仕方がないのに、その愛梨に恋人がいるという事実をまだ受け止められない。

 愛梨には『迎えに行く』と約束した。それはつまり、次に会った時は雪哉のものにするという意味だ。

 だがそれまでの間に1度も恋人を作るなとか、誰の事も好きになるな、とは言い添えていないし、中学生の言葉1つでそこまで愛梨を縛り付けておけるとは思っていなかった。
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