約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
3章 Side:愛梨

幼馴染みと、恋人と


 いつものように弘翔と終業時間を合わせ、揃って退社する。手には飲食店検索アプリを開いたスマートフォン。夕食は愛梨の好きなもので良いと言われたので『今日は何がいいかなぁ』と呟きながら、気になるお店を検索する。

 1階でエレベーターを降りて数歩進んだところで、前を歩いていた弘翔が急に立ち止まった。スマートフォンの画面に気を取られて油断していた愛梨は、そのまま弘翔の背中にぶつかってしまう。

「ちょっと、どうしたの?」

 衝突した弘翔の背中から身体を離して文句を言う。エレベーターから降りてきた他の社員たちが出入り口付近で停止した2人を邪魔くさそうな顔をしながら避けていくので、目が合った人には目礼で謝罪する。

「弘翔? 後ろつかえてるってば」
「お疲れ様です」

 立ち尽くした背中に更に文句を言うと、弘翔の向こう側から別の男性の声がした。何処かで聞いたことがあるような声だと思い、正面を覗き込むように身体を横に傾けると、弘翔の目の前にいる人物とばちりと目が合った。

「!」

 にこりと微笑まれる。
 成長に伴い、昔とは声の質が変わってしまった幼馴染み。

「待ち伏せするなんて、少し悪趣味なんじゃないですか?」

 直立不動になっていた弘翔がようやく発した言葉は、随分トゲのある物言いだった。思わず悲鳴に似た声が出そうになったが、弘翔を咎めていいものなのかは咄嗟に判断できない。

 弘翔の言い方から察するに、たまたま鉢合わせた訳ではなく、エレベーターを降りたらそこに雪哉が待っていたと思われる。スマートフォンの画面を見ていた愛梨は気付かなかったが、恐らくホール内にあるベンチにでも座って。
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