約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 年頃の娘を心配する父親のような態度が、何故か弘翔にはよく似合う。あっさりと父親の心情など凌駕していると呟いた弘翔に、愛梨も笑みを零した。

「ちなみに約束破ったら、愛梨の手作り弁当を、食わせてもらうから。俺のデスクで、あーんって」
「えぇ! やだ、そんなの恥ずかしい!」
「嫌ならちゃんと約束守ろうな?」

 父親らしい表情から彼氏らしい表情へ変貌した弘翔に、急いで返事をする。まさか本当に実行させられるとは思っていないが、恋人への配慮を欠く行為はしないと誓うことは大切だ。

 しっかりと同意した愛梨に、弘翔は1枚のカードを差し出した。受け取ったカードには、電話番号とメッセージアプリのIDが書かれている。雪哉のものだ。

「じゃあ連絡してみようかな」
「すげー腹立つけど、俺も連絡先入れとくか…」

 愛梨が呟くと、弘翔も渋々と自分のスマートフォンを取り出した。弘翔には雪哉の連絡先は必要がないと思うが、万が一会っているときに愛梨と連絡がつかなかった時の事を考えて、登録しておくのだろう。

 愛梨が雪哉と会った2週間後ぐらいには、あっさり消してそうだけど。

「あと夜に長時間、電話とかメッセージのやりとりすんのもダメだから」

 登録画面に電話番号を打ち込んでいると、弘翔が思い出したように呟いた。顔を上げて目線を合わせると、むっとした顔で見つめられる。

「弘翔……なんかお母さんみたいだよ」
「お母さんより心配してんのー」
「ふふっ……あはは」

 父親らしい表情の次は、母親らしい言葉を添えて口を尖らせる。先程と同じ言い回しに思わず笑い出した愛梨に、弘翔もそっと破顔した。

「ま。河上さんも良い人そうだし、俺はいい子に待ってますよー」

 運ばれてきた料理の香りをかいだ弘翔は、割り箸を2つに分けながら冗談めかして呟いた。愛梨もスマートフォンを仕舞うと、その真似をしながら軽い気持ちで頷き返す。

 そして香辛料の香りが鼻から肺へ入る頃には、2人とも雪哉の事など忘れてしまっていた。この時はまだ、雪哉の考えている事など一切知らなかったから。
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