しかくかんけい!
キルスイッチから視線を移せば、スマホ片手にぼけーっと街を眺めていた。
やや傾けられた横顔が、物足りなさそうな雰囲気を醸す。
「なに、まだ帰りたくないって意味?」
「え?あ、確かにこのまま帰るのもったいないね〜」
「天然かよ、帰ろ帰ろ」
ぐっとクラッチを切って、ぐっとセルボタンに添えた親指に力を込める。
「え〜しょうがないな〜、帰りますかぁ」
「あーなんか生意気」
ぼふっとメットをかぶせてシートに跨った。
後方に体重が乗ったのを感じた。
背中に体温が触れたのを感じた。
ちゃんと両手が腰につかまっているか確認できたら、ぐっと右手をひねって発進する。
冷たい風が首筋を引っかく。
でも不思議と寒くはない。
背中から、じわりと、熱が広がって。
からだの芯まであたたかくなって。
『そばに、いさせて』
そんな夏の言葉が、
脳裏をよぎった。
もう何度目かなんてわからない。
そのたびに心の中で目を閉じて耳を塞ぐ。
そんな欲望、消えろ。
冬の風が、メットの隙間から、肌に触れた。