花鎖に甘咬み
柏木の声。
だけど、柏木の口から一度も聞いたことないような鋭さの怒号で、耳を疑う。
「チッ」
柏木の指示に従ったボディガードたちが、私たちに容赦なく迫ってくる。
これは、私的にはまったく予想外なわけで。
「っ、柏木っ! どうして!」
「ご当主様の命ですから! ちとせ様をお父様のもとに連れ帰る義務があります、まして家出なんて認めるわけには……っ」
「柏木の主人は、私でしょう……っ!?」
契約上、そういうことになっているのだ。
お父様と私の命令が相反する場合は、柏木は私に従わなければならないはず。
「ですが! ご当主様はちとせお嬢様のお帰りをお待ちです! ご当主様はお嬢様を愛していらっしゃいます……っ、ちとせ様がいなくなれば、きっと────」
「きっと、何よ?」
「寂しく思われるかと……」
言葉を交わす間にも、屈強な男たちが真弓に次々と攻撃をしかける。あくまでも、私を傷つけまいと狙いを真弓に定めているらしい。
足で、腕で、叩き込まれようとする攻撃を真弓は慣れたようにあっさり躱していた。
「嘘よ。柏木だってずっと見てたからわかるでしょ……!? お父様は私の心配なんてひとつもしない。手駒がひとつ減って不便だなとかしか思わない。それとも何? 柏木は私が大人しく屋敷に戻って、望みもしない婚約を交わして、令嬢らしく振る舞えば満足なの?」
「っ、いえ……! ですがっ、ご当主様は」
真弓がちらりと柏木を見やる。
そして、すうっと視線を細くした。
「ダウト」
低い声がその場を制する。