花鎖に甘咬み
私と柏木は揃ってその声────真弓の方を振り返る。
「お前さあ。ちとせのことが好きなら、素直にそう言えば?」
「……へ」
「好きなんだろ。ちとせのことが、女として」
大きく目を見開く私。
柏木は、なにも、答えない。
「まっ、真弓? 今、そういう話してない」
「そーいう話だよ。なあ? 執事サン」
その間にも、ボディガードの男たちは真弓に拳をかざす。
そのひとつひとつをねじ伏せて、足元に転がしながら、真弓はわざと煽るように口を開く。
「“ご当主が” なんて、いちいち主語をコイツの親に変えるからややこしくてウザってえんだよ。要するにお前は、ちとせのことが好きで好きで、離しがたいから戻ってこいって言いたいんだろうが」
「ちょっと真弓、勝手にいろいろ憶測立てるのはいい加減に────」
「ッ、クソ」
吐き捨てるような声は、柏木のもの。
信じられなくて、息を呑む。
「ああ、その通りですよ。ちとせお嬢様のことを心からお慕いしている。俺は、お嬢様に仕えてから、ずっと────ずっと」
「まあ、素直になったところで、返さねえがな」
「っ、お前……!」
「俺に怒んなよ。俺を選んだのはオジョーサマなんですけどー」
「お前になにがわかる。お前が誰だか知らないが、ちとせお嬢様のことは、俺の方が」
「逆に、お前にちとせの何がわかる?」
私の体へ、柏木の腕が伸びてくる。
同時に、ボディガードのいくつもの腕も。
ハッ、と乾いた声で笑った真弓は私をぐいと一層強く抱えこんだ。