花鎖に甘咬み
もごもごと話す私に、真弓が眉をひそめる。
「なんだよ。お前、今さら照れてんの?」
「だって! 私、誰かに好きって言われたことなんてないし、そういうのずっと無縁だったし……! だから、初めてなの!」
気持ちに応えられるかどうかは別にして。
相手が柏木だという複雑さも抜きにして。
シンプルに、誰かに好意を向けられるのは嬉しいことだし、そりゃあ、そわそわドキドキもしてしまう。慣れていないのだから、なおのこと。
「ふーん、そういうもん?」
「な、何その顔……」
拗ねたようなジト目に、戸惑う。
こうしてみると、真弓ってけっこう表情が豊かだよね。最初は、ポーカーフェイスがデフォルトかと思っていたけれど。
「いや、別になーんも」
「それ、別にって顔じゃ……じゃ、なくて! 話を戻すけど、なんで真弓はわかったの?」
16年ちょっと、一緒にいても気づけなかった柏木の本音を、どうして柏木のことをよく知りもしない真弓が見抜いてしまったの。
「アイツ、めちゃくちゃ分かりやすかっただろうが」
「……うそ。ええ、どの辺りが?」
「顔」
「顔?」
「恋してますって表情にデカデカ書いてあったろ」
「いつ?」
「アイツがお前の姿を視界に入れてからずっと。“ああいう顔”、俺にはできねーからすぐ分かんだよ。あー、コイツそうとうちとせに惚れ込んでんだなって一発」
全然わかんない。
だって、柏木、いつも通りに見えたし……。
だったら、柏木はいったいいつから、私のことを好きでいてくれたんだろう。