花鎖に甘咬み



「そもそも、大の男があれだけ執着するなんて、惚れた女ぐらいしかねえわ」



そうなの……?

男の人のことって、よくわからない。そもそも、恋だの愛だの、そういうのも、あまりよくわかっていない。



でも……。

真弓もそうやって、誰かとくべつな女の子には執着するんだろうか。この、何にも執着なんてしなさそうな、真弓が。

想像すると、それだけで胸がギュッと縮む。




「────戻るぞ、いいな」




気づいたときには、茨の柵の前に来ていた。
金の鍵で開閉する、あの扉の目の前で、真弓は私の覚悟を最後に確認する。


真弓をもって、ここまで慎重なのは、中に入ってしまえばもう後には引けないことを、十分に知っているからなのかもしれない。



こくり、首を縦に振る。

すると、真弓はふ、と口端を緩めた。




「決死の覚悟で俺のそばにいるっつうなら、できる限り守ってやる」

「……え。守って、くれるの?」




ただでさえ、私は真弓のお荷物になるんだから、放っておいてくれてもいいのに、と思ったのだけれど。




「こっちにも、メリットがあんだよ。それなりに」

「メリットって、なに?」

「教えてやんねえ」

「い、いじわる!」




肝心のメリット、は教えてもらえなかった。
けれど、真弓のくくく、という笑い声にほっとする。


よかった。

私ばっかりに都合がいいだけなんじゃなくて、真弓にもちょっとでも私をそばに置く理由があるなら。


そばにいていい、と許しを得た気がした。



「ん」



私の体をそっと地面に降ろした真弓は、ぴんと立てた小指を差し出してくる。




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