「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
手にもった冊子のページをぺらりとめくり、ため息をつく。【1K 風呂トイレ別 家賃6万8千】【1DK ユニットバス 家賃7万】【1K ユニットバス 家賃5万2千】。要チェックな部分だけ流し読みをしながら、蛍光ピンクのマーカーを塗りたくる。
「……ユニットバス……ユニットバス、かぁ」
はぁ。
またひとつため息を吐いて、ぺらりとページをめくるも載せられている賃貸情報は代わり映えしない。家賃が安いのは分かっているのだけれど、ユニットバスというものに対しての抵抗感がどうにも拭えなくて、口端からうーうー唸る声が意図せず漏れていく。
別がいい、別が。風呂もトイレも洗面台も全部、別々がいい。だって、嫌じゃない?トイレを、言ってしまえば便座とかそんな感じのものを見ながらお風呂とか、嫌じゃない?歯を磨くのだって、嫌じゃない?私は嫌だ。
「……あーもう、」
「…………やさん」
「やだなぁ、」
「御来屋さん」
「っえ!あ!え!?っちょ、うわ、あっ!」
やだやだ、あーやだやだ。
なんて、子供かといわんばかりに駄々をこねていたら突如鼓膜を抜けた声。それに驚いてびくぅ!と肩を跳ねさせればペン立てに手が当たり、倒れかけたそれを掴もうと腕を動かせば読んでいた賃貸情報誌がその腕に弾かれてデスクから真っ逆さまに落ちていった。
嗚呼、今日も今日とて、ツイてない。
「す、みません……あの、驚かせるつもりは」
「いいいいえ、あの、こちらこそすみませんです志乃宮さん。ちょっと考え事をしてまして、」
「いえ、僕が」
「ははっ。じゃあ両成敗って事で。言いっこナシにしましょう」
「……」
「で、何かご用ですか?」
冊子を拾い、デスクの上に戻す。読んでいたページは閉じてしまったし、何より今は仕事中だ。ランチ返上で読み漁るしかないなと覚悟を決め、自分の隣で本当に申し訳ないですと言わんばかりの空気を漂わせている志乃宮さんへと視線を向けた。