「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
「あ、はい。週末の、他部署との合同の年度末食事会の会費の事なんですけど」
「……あ、」
「〆切、先週の金曜までだったんですけど御来屋さんだけまだ支払われていないので、参加するのかやめるのか聞いてきてくれと担当の眞鍋さんに頼まれまして」
「さ、ようですか」
「……」
「……」
「……御来屋さん?」
「え、あ、はい。参加です。いや、参加、したい、んです、けど……えと、その、手持ちが今なくて、あの、」
「あ、はい」
「……えと、お昼!お昼におろしてくるので、あの、」
「……」
「後で、あの、」
たらり、嫌な汗が垂れる。
お食事会。という名の飲み会を決して忘れていたわけではないと言い張りたいところだがここは正直に言おう。今の今まで忘れていた。
いや少し違うな。忘れていたというよりは、そこまで頭が回らなかったというか、実際、手も足も回らないし、六千円の会費にだって回せる金がない。それを差し引いてもそもそも論で金がない。何故かって?ははっ。空き巣にあったからだよ。
とはいえ、それだけが理由ではない。
先週の私は、とにかくツイていなかった。
まず月曜日。彼氏の浮気が発覚。しかも私の親友と。当然奴らとは縁を切った。
次に火曜日。お金を落とした。自販機の下に入り込んで、どう頑張っても取れなくて、諦めた。ただ、飲み物を買いたかっただけなのに。500円玉だった。
そして水曜日。元彼と呼ぶのも虫酸が走る浮気野郎がヨリを戻したいと私の家に特攻してきた。私の名前を呼びながら、泣いて、喚いて、通報されて、事情聴取とやらを三時間ほどされて疲労困憊な一日だった。
からの木曜日。大家さんに注意された。とばっちりだろ完全に!
で、金曜日。半年に一度あるかないかの残業をして帰宅した午後九時。ぶち割られた窓ガラスと荒らされた室内に唖然としつつもきちんと110番した私は偉い。「一昨日ぶりですね」といやらしく笑った警察官を殴り飛ばさなかった私はやっぱり偉い。
気を取り直して土曜日。ちゃっかりきっちり盗まれていた通帳をどうにかしてもらうべく銀行の窓口に赴くも時既に遅し。残高はたったの337円。振り込め詐欺に使われないようにだけはしてもらった。
そうして迎えた日曜日。家が燃えた。火元は一階。私の部屋の真下。あれか。調子に乗ってメゾネットタイプの部屋を借りたからか。何も持たずに必死で逃げたわチクショウ。
「…………いや、やっぱり、行くの、やめます。ごめん、なさい」
ゆっくりと落ちていく、視線と声のトーン。飲み会、行きたかった。けれどそんな余裕、今の私にはない。